2010年5月31日月曜日

地デジ化体験記(その2)

 地デジ化体験記から考えたことについて今回も二つほど問題点を指摘したい。

 前回、放送衛星を利用して難視聴地域への暫定送信を行うホワイトエリアの地域に該当したと書いた。これは総務省の補助(国税)と放送事業者(NHK・民放)の負担により、社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)が実施主体となって2010年3月から2015年3月までの5年間の期限付きで実施される放送で、東京地区で放送されているものと同内容の番組(CMを含む)が全国統一で供給される(ただし、期限内であっても、当該地区で地上デジタル放送が視聴できるようになれば視聴できなくなる)。

 日本の地上波民間放送事業は、原則、県域をサービスエリアとして免許が行われている(関東地区、関西地区、徳島、香川・岡山地区、鳥取・島根地区などを除く)。後発局ほど少なくなる傾向にはあるが、各々が独立した会社として自社制作番組を制作、放送することで、地域の言論の多様性を確保してきた。日本テレビ放送網株式会社が当初、アメリカを中心とした国際通信網の一部を構成し、日本国内のネットワークとして計画されていたものの、言論性確保のために、関東地域の一局とされた(その後、ニュースや番組供給等において「ネットワーク協定」を結んだことにより、実質的に全国のキー局の位置づけを獲得している)。その後、作られた集中排除原則ともあいまって、副次的に、地域の商圏を維持できた。民放局にとっては、放送エリア内での商圏を対象とした広告放送が可能となり、よりきめ細かい広告需要にも応えることができてきたのである。そのため、デジタル化により放送衛星が民間放送にも拡大されるようになった時に、地域の商圏確保のために、地上波キー局による直接使用を認めず、経営上は厳しいにもかかわらず別会社が作られたという経緯がある。ところが、星から電波を落とすことで、限定的とはいえ、実質的には原則を崩してしまうことになる。地域の言論性確保をするならば、BS放送ではなく、CS放送(110度)により、地域ごとの放送再送信を実施すべきものではなかったかと思う。

 もう一つ、関東地区における「デジ・デジ」変換の問題である。2011年7月24日の完全デジタル化後に再度アンテナ調整が必要となる地区が発生する。それというのも、2011年を目指してUHFのアンテナを設置したとしても、2012年からは東京スカイツリーに電波中継施設が変わるからだ。これによる影響は大きく分けて二つのパターンが考えられるが、一つは東京中心部に位置し、東京タワーと東京スカイツリーの方向が大きく異なる個所、もう一つは、スカイツリーとの間に電波障害物が存在する可能性である。

 私の仕事場は、東京都の豊島区に存在するが、現在、地上デジタル放送は東京タワーから放送されているものを受信している。こちらも最近、地上デジタル用のアンテナを自らの手で設置したが、2012年には、南東方向に設置してあるアンテナをスカイツリーの存在する東方向に変えなければならない。それだけかと感じられるかもしれないが、2階建ての仕事場の東隣には8階建てのマンションが建っており、「ビル陰」で難視聴となることが想定される。もちろん、既存建設物による難視聴の場合には、放送局等の負担により受信設備等の調整、設置が行われるため、費用負担はないというが、難視聴でない場合には、個々の費用負担となる。2011年にアナログ波を止めて、一度デジタル化した上で、2012年に方向を変えさせるのは、二度の手間と費用負担になるではないか。

 2012年春の開業を目指して建設中の東京スカイツリーは、新たな観光名所としては人気を博しているが、電波塔としての誕生の経緯と施設は中途半端な面が否めない。新タワーの建設は2006年3月31日に押上・業平地区に最終決定したが、関東地区での地上デジタル放送は2003年12月1日に始まっている(もっとも当初は、電波調整のため東京タワーから1km程度の範囲でしかなかったが)し、そもそもNHK・民放の在京放送事業者が新タワー推進プロジェクトを作ったのが、それから地上デジタル放送開始から半月遅れること12月17日であった。また、地上デジタル放送への10年間での全面転換は2001年7月に決まっているのだから、放送送信用の新タワー建設が後手後手になった面がある。

 政策の掛け違いといえば、おしまいだが、それならば、少なくとも、スカイツリー開業後1年程度は、アナログ/デジタル(東京タワー)とデジタル(東京スカイツリー)のサイマル放送を行うべきではないか。
 そうでないならば、最近始まった「ラジコ」(IPサイマルラジオ協議会、Radiko.jp)のように、IPを利用した再送信という手もある。BS/CSよりも安価であるし、東京地区では通信サービスエリアが充実しているため、臨時の補完手段としては優れているのではないか。
「ラジコ」は、実証実験が関東と関西の両地区で8月までの予定で実施中のIPサイマルキャストで、IPによる受信制御設定がなされているため、商圏や著作権等の権利関係の管理・制御が容易である。

 この実証実験は、関東地区(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)では、TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送(以上AM)、ラジオNIKKEI(短波)、InterFM、エフエム東京、J-WAVE(以上FM)が、関西地区(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)では朝日放送、毎日放送、ラジオ大阪、FMCOCOLO、FM902、FM大阪がこれに参加している。

 これまで、若年層を含めて、ラジオ聴取率の低迷とそれに伴う広告収入の減少に悩んでいたが、電通が音頭をとって進めたこの実証実験により、ラジオに明るい光が差しつつある。本来、通信・放送の融合を言うならば、こうした受信対策に使ってもよいのではないかと思う。実は、BSを併用した難視聴対策や完全デジタル化のプロセスは正解といえるのか、非常に疑問に思うのである。

(つづく)

主任研究員(Y) 専門:メディア倫理法制

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