2010年2月10日水曜日

視聴率の不思議

 電通という会社があるが、この会社の子会社のビデオリサーチ社が視聴率をほぼ独占的に発表しているわけで、大いに、違和感がある。視聴率によって広告料は変わるわけで、穿った見方をすれば、電通はいくらだって、自分の都合で視聴率を変えられる。無論、ビデオ社の倫理観は崇高なもので、そんなことは無いと信じるが、しかし、なんでこんな変な状況を長年放っておいたのだろうか。一方の博報堂は、文句の一つでも言ったことがあるのだろうか?あるいは、公引は何も思わなかったのか?だとすれば、まったくのエポケーであるし、ギョーカイの「競争をしないで丸儲け」構造を守るための、強い縄張りを感ずる。
 しかし、いわゆる「通放融合」の時代にあって、状況は徐々に変わり始めてきている。例えば、通信の巨人であるNTTが、光ファイバーでテレビを伝達するサービスを行なっているが、彼らのサービスを使って、テレビを見ている視聴者がどれくらいかを、NTTが独自に測定するのは朝飯前である。もっとインターネットベンチャーに話を振って考えると、なお、おもしろくなる。世の中に出回っている、地デジ対応テレビには、インターネットへアップリンクするソケットが備わっている。某大手メーカーの方によれば、そのメーカーのインターネットに接続できる、いわゆる薄型地デジ対応テレビの総出荷数の内、約30%もの世帯が、テレビをインターネットにつないでいるというデータもあるようである。
 となると、話は変わってくる。インターネット上の「視聴率測定サーバー」があるとして、そこに入っているクローラー(ロボット)が、インターネット上にあるテレビをクロールしてまわり、今、この瞬間、どのテレビでどの番組が見られているかを測定することだって理論的には考えられる。しかしこの話をエンジニアと詰めているといくつかのハードルがある。そもそも、視聴者のパーミッション無しに、ずけずけとお茶の間のテレビまでクローラーがクロールして勝手に情報を取って良いのか、という「情報社会論」的な議論を横においておいたとしても、自宅の中のルーターの下のネットワークに繋がったテレビに勝手に、インターネット上のサーバーが触りに行き、情報を取得するのは、「まず」不可能である。しかし、無論、このようなことを考えたベンチャー企業がメーカーと組んで、そのテレビメーカーが、テレビ側(のファームウェアに)に何らかの信号をインターネットに向けて発信する仕組みを埋め込んで出荷すれば、インターネット上のサーバーで情報を取得することが可能になる。こうなってくると、インターネットのベンチャー企業が、視聴率を、インターネットの慣例に従って、無料で公開する、なんていう日が来てもおかしくない。となると、電通の子会社のビデオ社は出る幕がなくなる。さらに、もって言えば、それができるなら、各テレビ局が独自に「視聴率測定サーバー」をたてて、自分の視聴率を自分で取得することすらできるようになる。後は、その視聴率に対する統計的裏づけと「権威付け」の問題だけになるのである。
 こんなことを考えながら特許庁のホームページで視聴率に関する公開特許を調べてみると、ざっと500件を越えるヒットがあった。まぁ、どの人もそんなことを考えているわけで、「技術的ブレークスルー」、「メーカーとのコラボレート」そして、「通放融合の波」を上手く乗りこなせるプレーヤーが、この戦いに勝てそうである。ひょっとすると、また、その勝者がビデオ社だったりするかもしれないが、個人的にそれだけは、勘弁、である。

代表主任研究員(T) 専門:情報産業論、メディア技術論