2010年12月30日木曜日

ウェブサービスの生態系

 2010年最後の投稿は、このタイトルで考えてみたいと思う。

 「ウェブサービスの生態系」ができはじめている。
 海外のITメディアでは、少し前から「Web Ecosystem」という言葉が使われている。「生態系」とは一体何か?メディア論の歴史を紐解くと、メディアの生態系についての研究がちらほら見受けられるが、そういった広義の意味ではなく、あくまでもインターネットの世界、また特に、ウェブサービスの世界について考えてみたい。

 WEB2.0という言葉が語られて久しいが、WEB1.0の時代には、「ウェブサービスの生態系」は存在しなかった。つまり、情報の出し手と受け手が、「比較的」明確に分かれていた。それが、WEB2.0の時代になると互いに交差するようになってきたというのがここ20年弱の流れである。

 もっと、話を個別具体的にわかりやすくするために、グルメに関する有名ウェブサービスを例にとって考えてみよう。例えば「ぐるなび」。サービス単独で一部上場を果たすまでになったこのサービスは、名実共に、歴史も長く売上も大きなサービスである。しかし、WEB1.0のビジネスモデルと言われ、どうやら、「ぐるなび」をカバレッジしている、株屋からは「売り」銘柄のようである。つまり、加盟店から「ぐるなび」へのページ掲載料を強大な営業力で取り、そして次々と加盟店を増やしていく、このビジネスモデルは、WEB1.0の典型であり、WEB2.0の時代にはついていけない限界があるという見方である。確かに、「ぐるなび」のビジネスモデルに、「食べログ」で言うところの「★」評価を付けた瞬間、「ぐるなび」は崩壊する。つまり、高い掲載料を支払っている加盟店(=お店)の評価が低いことが公にさらされると、加盟店が逃げる可能性があるからだ。しかし、現在のインターネットユーザーは、実は、「ぐるなび」モデルよりも「食べログ」モデルを望んでいる。つまり、色がついていない多くのユーザーの「★」評価が最も信じられる、という類の言説である。これは、確かにその通りではないだろうか。本を買うときに、本屋に並んでいる本の帯の言葉を信用するよりも、Amazonのレビューを見た方が断然に「ためになる」のと一緒である。さらに進んで最近は「Alike.jp」というサービスも出てきた。これは、「食べログ」の口コミをさらに進化させて、いわゆる「ソーシャル」要素をメインに押し出したサービスである。つまるところ、TwitterやFacebookやmixiの情報がソースとなるのである。

 さて、話を元に戻そう。「ウェブサービスの生態系」という意味においては、この例にある一番古参の「ぐるなび」と新参者の「Alike.jp」の比較がわかりやすい。「ぐるなび」は他のウェブサービスとの連携を原則として行なっていない。いわば、「ぐるなび」は「ぐるなび」で完結しているのである。一方の「Alike.jp」は、上述のように各種ソーシャルサービスからの情報をソースに、サービスを作り上げている。これは、ウェブサービスの生態系の中に自分のサービスを置いているといえる。この裏には、「API(Application Program Interface)」の公開、というWEB2.0時代の流れがある。

 WEB1.0時代までのサービスは、自分たちのサービスが溜めた「データ」は財産であるから、一生懸命に守っていた。しかし、WEB2.0時代のサービスは、その財産たる「データ」をAPIを通じて、一般に広く開放・公開していこう、という流れが急激におこったのである。従って、TwitterもFacebookもmixiも例外なくAPIを公開しており、これらに「繋ぐ」ことで、「Alike.jp」のようなサービスが可能になったのである。つまり、これが、「ウェブサービスの生態系」の「一部」である。無論、「ぐるなび」もAPIを公開はしているものの、ビジネスモデルがWEB1.0のままであるため、このAPIが上手く機能しているとは言いがたい。「上手く機能しているとは言いがたい」というのはどういうことかといえば、APIを使って、そのAPIを公開しているサービスの資産を使って新しいサービスを作った人達が、「商売ができているか否か」である。本件に限らず、これまでも、多くのサービスがAPIを急激に公開していきた。しかし、そのAPIを使ったサービスが「商売」として成り立つ例は極端に少なかった。

 しかし、特にTwitterの登場以降、そのAPIを利用したサービスでも「商売」が成り立つ例が目立ってきたのである。先ほど生態系の「一部」と書いたのは、「商売が成り立つか否か」という線引きのためである。本来的なエコロジーは、サステインナブルでなければならない。つまり、コストを吸収できる売上がなければ、エコロジーとは言えない。そういう意味で、広義のNPO活動で無い限り、完全な「ウェブサービスの生態系」を成しているという意味においては、大元のサービスだけではなく、APIを通じたサービスがプロフィッタブルであることが前提であると思う。

 つまり、上述の例で言えば、「Alike.jp」はTwitterの生態系を成している、といえるのである。その他にも、Twitterに写真掲載をするサービスや、140字対策で、URLを短縮するサービスなど、Twitterの資産を存分に利用し、広告収入で商売を可能にするサービスは最近になって多く立ち上がってきた。これが本当の「ウェブサービスの生態系」なのである。一方で、大元のサービスが、何らかの理由でサービスを中止したり、あるいは、APIの公開をやめてしまったり、または、APIが何らかの理由で動かなくなってしまうことに対する不安は大きい。実際、日本のいくつかのサービス(ここでは名言は避けるが)において、APIを限定的に公開しており、実際APIの利用を審査性にして、自社に不利なサービスが少しでもあると、APIを利用させない事例も見られる。しかし、大々的に「APIを公開」とプレスリリースを出していたりする。これは、本当のAPIの公開、つまりは、本サービスを中心とした生態系の自然発生を促す行為にはなりえないのではないか。

 WEB2.0が語られた時代、つまりは、日本においては、梅田望夫氏の『ウェブ進化論』で語られた世界では、まだこの「本当」の「ウェブサービスの生態系」については触れられていなかった。しかし、今まさに、世界的に大きなサービスを中心とした生態系ができつつあり、同時に、WEB2.0時代が完成に近付いているタイミングなのかもしれない。「ウェブサービスの生態系」については、今後も注視していきたい。


代表主任研究員(T) 専門:情報産業論、メディア技術論