2010年10月31日日曜日

デジタル難民の行く先はどこ? 地デジ化体験記(その4)

 しばらく時間がたってしまったが、地上(BS)デジタル完全移行についてのちぐはぐぶりなところをもう少し書き留めておきたい。

○複雑すぎるデジタル難視聴対策の手続

 「地デジ難視対策衛星放送対象リスト(ホワイトリスト)」の対象地区になったことは第1回(2010年4月30日)、第2回(5月31日)で書き記したが、すぐに手続をしようとして、デジサポ⇒DPAに連絡して、申し込み用紙の郵送を希望したところ、「まずは市役所から地区を通して告知するのでそれを待ってほしい」(地区によって告知方法は違うらしいが)ということであったので、待っていたが約一か月たっても来ないので、痺れを切らして再度問い合わせをしたら、「すぐに送ります」という(だったら、最初から送ってもらいたいものだが!!)。

 また、申請も非常にわずらわしく、写真つきの住基ネットカードのコピーならば単独での提出が可能なものの、住民票や健康保険証、パスポート等は単独での証明ができず、免許書等の写真つきのものを併せて提出しなければならないという非常に厄介な申請になっている。
 それだけでなく、その書類がDPAに届いた後、電話による本人確認があり、その後、申請地に届いた確認のはがきを送り返さないと使用ができないというのだ(この時点までに、DPAは視聴者を犯罪者扱いしているのかと怒り心頭になっていた)。

 その一方で、そこまでしつこく確認を求めていながら、開通通知は全くなく、いつまでたっても映らない。そのため、問い合わせをしてみて、その方法を実施してみると映らない。もう一度確認の電話をすると、(向こうの決めた)期限内にチューナーでの受信がなされなかったので、暗号鍵解除の信号を止めたというのだ。DPAの言い分によれば、そこら辺は、「申請時の用紙に書いてあります」という。だが、申請書にはおおよそのスケジュールしか示されていないのであり、いつ開通したのかも視聴者は分からない。そんな不十分な説明で良いと思っているのだろうか。

○なぜ3台に限られるのか?

 上記の対象地区においては、3台までのチューナー(B-CASカード)が登録できるのだが、なぜ3台までに限定されているのか。DPAの説明によれば、総務省との協議等において、保有台数等を勘案して3台に決めたというが、ここには録画機の台数を勘定に入れていない節がある。そうなると、テレビ2台、録画機1台という勘定なのか。それ以上を保有している世帯は、不便をがまんしろということなのか。

 DPAの担当者は、「録画機を通して視聴してください」ということを説明していたが、録画機は主にチューナーとして使う目的であるのではなく、録画をするためのものである。それが副次的にチューナーとして使えるだけのことであり、シングルチューナーのデッキの場合には、視聴時間帯と同時間帯に放送されるいわゆる「裏番組」の録画ができないことになってしまい、録画機の本来の意味を半減させてしまう。こうしたちぐはぐぶりは、国とDPAの制度・政策設計の乏しさに根本原因がある。

 総務省やDPAはデジタル放送普及においてどうも録画機の存在を軽視しているとしか思えない。たとえば、DPAでは、デジタル受信機の普及状況を示すものとしてNHK独自の推定値としての普及状況(速報値)をウェブサイトに随時掲載している。2010年9月末現在で、地上デジタル放送(累計)で8814万台(「PDP・液晶テレビ」約5566万台、「ブラウン管テレビ」約72万台、「デジタルチューナー(チューナー内臓録画機も含む)」約1986万台、「ケーブルテレビ用STB」の小計約8569万台に「地上デジタルチューナー内蔵PC、JEITA発表値8月末現在)約245万台をあわせて」)としているが、これは各方面から指摘のあるように、ビデオに搭載されたチューナーをカウントしているのではないかという可能性がある。仮にその指摘が間違っているのだとして、それを別途集計しているならば、HDDレコーダーなどの録画機の普及台数なども別途公表すべきであるという別の問題も生じる(つまり、アナログHDD録画機などもいずれ不要になるのだから・・・)。
逆に言えば、仮に、DPAがウェブサイトに掲載しているNHKの数値が、テレビ単体の集計値だとするならば、なぜ難視聴対策地区では、録画機を含めて3台に限っているのか。

 一足先に2010年7月24日に完全デジタル化を実施した石川県珠洲市では、使用している受信機の台数により最大4台までのチューナーが貸与された。4台でも十分とはいえないが、一方で4台用意されているにもかかわらず、なぜ、デジタル難視聴世帯は3台に限られるのであろうか。むしろ、難視聴地区は買い替えの余裕があっても物理的に映らないのである。せっかく、買い替えをしても映らないテレビ・録画機になってしまうだけである(こういう救済はそもそも必要ないのであろうか、あるいは家族そろってお茶の間で視聴してくださいということを推奨しているのであろうか)。

 仮に受信している台数によって衛星使用料を衛星会社に支払っているのだとすれば、台数を限定することの推測もつくが、もしそうでなければ、衛星電波の照射を受けているだけのチューナーの台数を制限する理屈が分からない。

○国と視聴者のチキンレース

 2011年7月24日まであと266日(10月31日現在)。新聞紙面でもカウントダウンが行われているが、本当にとまるのか懐疑的にみる視聴者もいなくはない。また、集合住宅等ではその費用負担をめぐって折り合いがつかず、南関東地区の設置されているアンテナを目視してみても、依然としてVHFと思しきアンテナだらけである。アナログテレビでは、すでにレターボックス画面で黒枠の中にデジタルへの移行を呼びかけるメッセージで画面が「汚されている」が、現実の問題として、来年の7月にはアンテナ工事が間に合わず、デジタルテレビを見ることのできない「デジタル難民」が出てしまうことになる。総務省側は、7月24日が譲れない線としているものの、アンテナ工事殺到による限界についてはどうしようもなく、ようやく緊急対策として地デジ難視対策衛星放送対象の再送信を活用するという(『読売新聞』2010年10月28日付)政策を打ち出した。ただ、これもBS受信機・アンテナを持っていない世帯や、ビル陰などでBSが受信できない場所では、根本的な解決にはならない。

 こんなことをするよりも、アナログ放送のサイマル送信に補助を出して、2年ぐらい延期してはどうだろうか。アナログ送信設備は機材がすでに生産されていないため綱渡りになる問題はあるものの、そうすれば、関東地区でも「スカイツリー」の建設が間に合うし、北海道や山岳地区での中継アンテナの整備も間に合うではないのか。


主任研究員(Y) 専門:メディア倫理・法制