2009年4月20日月曜日

「『通信』と『通信』の融合」

 情報通信メディアの環境についてブログを書こう、と言い出しておきながら、ド頭からちょっと本題からずれた話を書いてきてしまっているので、この辺で多少、方向修正をしておこう。まぁ、ずれた話も、それはそれで有意義なのだが・・・。
「通信と放送の融合」が議論されはじめて、もう随分長い時間が経過している。この議論も、パケット通信の技術的台頭と安定や、地デジ化を控えたテレビの文脈の中で蛇行しながらも前に進みつつある。例えば、地デジのIP再送信の議論や、NTTのNGNへの巨額投資、そして、動画の圧縮技術の進歩などなど。そもそも、通信と放送を分別して考える必要が技術的側面からは薄れつつある。色濃く分離したいのは、霞ヶ関や既得権益者が残されるのみとなったのではないだろうか。
 そんな中、おもしろい記事を発見した。おなじみ、Apple社のiPhoneのアプリケーションにSkypeが乗ったという(http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0903/31/news025.html)。正確に言えば、SkypeがiPhone向けのSkypeアプリケーションを作ったのだ。さて、これは実に面白い。ご存知Skypeは、VoIPの草分け的存在だ。私も海外出張の際には、PCに入れたSkypeを重宝している。なにせ、無料で世界中と話やチャットができ、必要あらば、世界中の携帯電話や固定電話に、超格安で電話がかけられる。以前、欧州を旅行中にギリシャで近い知人の訃報を受け、ホテルのネットに繋いだノートパソコンから、関係者と何時間にも渡りSkypeで電話をしたが、そのコストはたった数百円だった。さて、話を元に戻そう。そのSkypeがiPhoneに乗ったのである。特段驚くようなことではないかもしれないが、簡単に言うと、「電話のサービスが電話機に付いた」のである。誠に笑える。実はこれ、私は意外と面白い歴史的背景を持っていると考える。昔、大学院時代に私の師匠の一人が、「インターネットの世界では『PC屋と電話屋』が対立している」と言ったことがある。PC屋とは、例えばハッカーに代表されるように、インターネット文化を作り上げてきたようなプログラマー集団や企業であり、一方の電話屋というのは、日本で言えば、NTTやそのグループ、米国で言えば、at&t及びベビーベルといったところだろう。「電話屋」にしてみれば、いままで異業種だったはずの「PC屋」は、インターネットの登場で急にライバルになってしまった。SkypeなどVoIPサービスの登場はインターネットの歴史において、比較的最近の出来事だが、例えば、その昔、国際電話をすれば、数千円から一万円オーバー稼いでいた電話屋が、インターネットの出現で(もっと具体的にはSMTPの出現により)メールをすれば無料で済む、という話になってしまった。無論慌てたのは、電話屋の方であった。この時よく聞いた議論では、技術的に電話は発信者と受話者を直接「線」で繋いでいるから「ギャランティー型」の通信であって、そこに価値があると。だから、電話はすごい、という論調である。一方のインターネット側はというと、パケット通信であるため、「ベストエフォート型」の通信なので、その信頼性に問題があると。しかし、どうであろう。結果として、今や冒頭で述べたように、地デジのIP再送信の事実でも見られる通り、ハイクオリティの動画が確実に受信者に届けられる時代になったのである。そうなってくると、ユーザーからすれば、固定電話とVoIPの技術的違いなんてどうでも良くなる。ギリシャからSkypeで長電話しようと、そのクオリティはまったく固定電話と一緒である。いわんや、同時にチャットや、ウェブカメラを付ければ動画も送れる。面白いことに、日本の役人は、なんとかこのVoIPを既存の固定電話や携帯電話のサービスと切り離したいらしく、「IP電話」というサービスはISPが行うサービスであって、050-の番号が付与されることで、他と区別されるようである。紛らわしくも、「インターネット電話」なるサービスも別に区別されていて、こっちは、固定電話と同じく、03-や06-の番号の付与が、「暗」に認められているようである。ちなみに、米国の場合、固定電話、携帯電話、VoIPで、番号による区別は無い。
 このように、PC屋と電話屋は、いずれも、日本的に言えば「通信」の枠組みにいながら、いわば「政治的」に区別されてきた経緯がある。私が見るに、どうも、既得権益者たちは、インターネットの勢いが怖いように見受けられる。
 さてiPhone版Skypeだが、そんなSkypeがiPhoneに乗ってしまった。つまり、Wi-Fi下にある場合、iPhoneから無料で電話をかけることができるわけである。まぁ、ギリギリ面子を保った部分は、Wi-Fi下でなければ、Skypeで無料電話をかけようとも、キャリア(iPhone側)は、パケット料で商売ができる、ところであろうか。
 そんなわけで、相変わらず、読者には、回りくどくて申し訳ないが、「通信と放送の融合」の時代には、「通信と通信の融合」も起こってきているという現実があることを、このニュースにより実感させられた次第である。もう少し本質的なことをいうと、新しいイノベーションと既得権とが、にらみ合っていた時代が、そろそろ過ぎ去ろうとしており、文字通り「融合」しようと、歩調をあわせてきている時代が到来したのかなぁ、とも思う。しかし、一方で、既得権は強く、自分の負けを認めない。まぁ、既得権益者とはそういうものである。しかし、遅かれ早かれ、「融合」せざるを得ない時代が来るであろう。なぜなら、主役は、技術そのものや、既得権益者そのものではなく、それらのサービスを使う我々市民、一人一人なのだから。

代表主任研究員(T) 専門:情報産業論・メディア技術論

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